恋愛
恋人が僕にこう言った。
「二人の愛が本物である証に、あたしとあなたの小指を交換しましょうよ」
僕は恋人を愛していたので、右手の小指をハサミでパッチンと切り落として恋人の小指と交換した。恋人の小指は細くて小さくて僕の右手には何だかバランスが悪かったけれど、それをいいうならば僕の小指は彼女の右手には大きすぎてより滑稽だった。僕たちは互いの不揃いになった右手を見てアハハと笑って接吻を交わした。

秋がきて冬がきて僕は恋人と別れて、新しい恋人をつくった。
新しい恋人は僕のアンバランスな右手の小指を見て「古い恋人の指を何時までも付け続けているなんて酷い人ですわ」といって、僕の右手の小指をハサミでパッチンと切り落とした。そして、「二人の愛の記念に互いの目の玉を交換しましょう」といった。勿論、僕に異論はない。眼窩に指をつっこんでくるりと左の目玉を取り出すと、彼女の目玉と交換した。僕は近眼で彼女はロンパリだったので、僕たちは近眼でロンパリになった。僕たちはその近眼でロンパリな目玉で互いの顔を見合ってアハハと笑って接吻した。

秋がきて冬がきて僕は新しい恋人とも別れて、さらに新しい恋人をつくった。
恋人は僕のなくなってしまった右手の小指も、近眼でロンパリになってしまった古い恋人の目の玉のことも何も言わなかった。僕は恋人がとても愛しかったので「二人の愛のために心臓を交換しよう」といった。すると恋人は首を横にふって「あたしはあなたと一時でも離れるのが嫌なのです。ですから、あたしの体躯の全てを差し上げますからあなたと一つになりたいのです」といった。
僕は恋人の真摯で一途な愛情に心を打たれて、死ぬまで彼女と別れるまいと誓った。僕はナイフで恋人の身体をバラバラにすると暖炉に火をくべて、恋人の身体も心もすべてをぐつぐつと大なべで煮込んでシチューを作った。たくさん出来たので僕はそれを3日かけて食べつくした。シチューになった恋人は僕の体内でゆっくりと解け、僕の身体と絡み合い溶け合い、やがて二人の境界は曖昧になり僕だか恋人だかわからない一人になった。僕でもあり恋人でもある一人はアハハと笑った。一人になってしまったのでもう接吻は出来なかった。

2003/09/09 Tue (No.039)}

 

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