死刑執行人

郵便配達の仕事をクビになったので新しい仕事を見つける必要に迫られた。俺は駅の売店で新聞を買って求人欄から俺にも出来そうな仕事がないか探した。俺は学もないし虚弱だから肉体労働の類も出来ない。運転免許もないので運転手の仕事も出来ない。そんな按配だから俺にも勤まりそうな仕事というのはなかなかない。

中華料理屋の皿洗いの仕事でもないだろうか? あるいは犬の散歩はどうだろうか? などと考えながら求人欄を追っかけているとなかなか素敵な求人広告を見つけた。

「あなたも死刑執行人になりませんか? 初心者歓迎。誰にでもできる簡単な作業です。10時と3時の休憩あります。」

電話をかけると面接したいというので出向いていった。面接官は初老の男で二つ三つほど差障りのない質問をされただけであっさり採用がきまった。死刑執行人という職業はなかなかなり手がいないのだそうだ。にもかかわらず最近の凶悪犯罪の増加で死刑囚が増えて刑務所では今、死刑執行人が酷い人手不足で困っているのだそうだ。

「死刑執行人というと何だか残酷なイメージがあるんでしょうね。ギロチンとか電気椅子とかね。でもね、今はもうそんなこと全然ないの。死刑執行人のやることといったらボタンを一つ押すだけ。後は全部全自動で死刑が執行されちゃう。死刑囚もガスでころりと死んじゃうからね。残酷なことなんか全然ない。非常にクリーンで安全で人道的な職業ですよ。君は今日は何か都合があるのかね。ない、良かった、じゃあ早速今日から働いてくれないかな。こっちへ来て。」

俺が連れてこられたのは四畳半ほどの部屋で机と椅子が一組。机の上には赤いボタンとランプがついていて、その脇には山のような書類が積まれていた。今日の作業予定者が病気で寝込んでしまい死刑待ちの死刑囚が溜まって困っていたところだったらしい。作業は本当に簡単で、書類を1枚抜き出してボタンを押す。すると死刑囚の死刑が実行されて完了するとランプが点灯く。そうすれば書類にサインをして書類を死刑済みのフォルダに挟む。後はこれの繰り返しだ。

四・五十人ほど死刑にしたところで終業のベルがなった。

「なかなか優秀ですね。今日はあなたの歓迎会ということで少し飲みにでもいきませんか?」

ビールを飲みながらいろいろ仕事の話をした。

「最初のうちは誰でも多少の罪悪感を持つものです。でもね、それも慣れです、慣れ。」

「死刑というのはなかなか紳士的な刑罰だと私は思うのですよ。」

などなど・・・

少し酔っ払いながら、この仕事なら何とか続けられそうだなぁ。と思った。

2002/09/28 Sat (No.032)

 

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