ギャンブル

もう亡くなって随分になるけれど、たいそうギャンブル狂の叔父がいて、家族も家も持たない叔父は良く我が家にふらりとやってきて、何日か泊まったかと思うとまたふらりと出て行くというようなことをやっていた。

相当な無頼であったらしいが甥っ子である私たち兄妹には良くしてくれる叔父であった。

あれは私がまだ小学校に通っていた頃のことだったろうか。叔父は右手の小指と左手の全ての指がなかった。遠慮も何もない子供であったから私は叔父に何故指がないのかと尋ねたことがあった。叔父はまったく自慢できる話ではないけれどといって、その理由を話してくれた。

それはまだ戦争中のことで、徴兵で南洋へ出兵させられた叔父達の部隊は敵の待ち伏せで壊滅的な存在を受けて、何とか助かった叔父を含めた数人は救援が来るまで島の洞窟で3日程隠れることになったらしい。「救援が来るまで動くに動けないけないんだ、何もやることもない。となったらやることは決まってるわな」ということで、叔父達は博打を始めたそうだ。でも、博打を打つといっても何もかけるものがない。最初の内は手持ちのタバコや食べ物を賭けてたらしいけれど、そんなものは直ぐに底をつく。最終的に叔父達は自分達の指をかけることにしたらしい。「なくした指はその時負けてとられた分だ。でも、負けてばかりじゃねぇぞ。」と、叔父はそういうとカバンの中からぼろぼろのアルミの箱を取り出して中身を見せてくれた。そこには大小20本ほどの干からびた指が入っていた。

2002/09/25 Wed (No.028)

 

戻る

 

inserted by FC2 system