昔話
今ではもう昔のことになってしまったが、鞍馬山の麓に桜姫という内裏では有名な美女が居た。容姿も美しかったが、それにもまして気立てが優しく、求婚者が後を絶たなかった。しかし、ある日のこと急に思いつめたように無口になり部屋に篭るようになってしまい、ついには床に臥せるようになってしまった。父君は桜姫が怪しきものにとり憑かれたのだと思って、占い師や東寺から僧侶を呼び寄せて加持祈祷を行ったが、一向に桜姫の容態は良くならなかった。そこで父君は京で最も知られている陰陽師である安倍晴明に加持祈祷してもらうことにした。晴明は桜姫をひと目見て、これは憑き物は憑き物なれど私にも祓うことの出来ない憑き物です。代わりにもっと適した人がいるので連れてきましょう。というと、袂から紙片を取り出し空へと投げると、それは大きな鳥になって飛んでいってしまった。一刻ほどすると、鳥は一人の若者を背中に乗せて戻ってきた。若者の姿を見たとたん桜姫は元気を取り戻してしまった。父君は晴明に、あの若者は何者なのかと尋ねると、晴明は、桜姫は恋に取り憑かれておったのです。というとさっさと引き上げてしまった。
1999/12/30 Thu (No.017)

 

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