玉子を眼球にする話

眼球をうっかり落としてしまった。昨日の晩、しこたま酒を飲んで泥酔したのが悪かった。帰る頃にはすっかり出来あがっていて、どのようにして家にたどり着いたのか全く記憶がない。どうやら、家に帰る途中で落っことしたらしい。朝、酷い二日酔いで目が醒めると、既に左の眼球が無かったのである。

「いやはや、こいつは困ったもんだ。」と、色々、当てにならない記憶を辿って探しては見たけれどどうにも見つからない。見つからないものはしようが無いので、そのまま放って置く事にした。

暫く、そうやって眼窩を空っぽにして生活していく内に、自分としては眼球のない生活にも馴れて、まぁこのままでも良いか。等と暢気に考えていたのだが、下宿の婆さんが「そんなコトでは嫁のきてがなくなる。」等と煩いし、仕事場の女工達も何だか気味が悪いとかいって評判がよろしくない。義眼でも入れてやろうかと思ったが先立つものがない。どうしたものかと思いながら、朝食の茹玉子の殻を剥いているうちに良いことを思いついた。茹玉子を包丁で半分に切って、ぽっかり空いた左の眼窩に切った茹玉子をはめ込んだ。最初は少し抵抗があったけれどじきにすっぽりと眼窩に収まった。茹玉子はぷにぷにと柔らかくて眼窩にぴったりと密着してなかなかに按配が良い。色は黄色いが黄身の部分が黒目の変わりになったようで調度良い感じだ。我ながら絶妙のアイデアにニッコリと笑ってしまった。困ったこととして、見るものが全てが黄色く染まって見えたが、それも暫くそうしているうちに馴れてしまった。

1999/09/24 Fri (No.011)

 

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