斬首刑

中世ヨーロッパのとある小国で、今まさに斬首刑が執行されようとしていた。刑に処されるのは敵国の騎士団の面々。領主が騎士団の団長に最後の望みはないかと尋ねた。すると団長は「私が死刑になるのは構いません。しかし部下達だけは何としても助けたく思います。そこで、お願いがあります。私の首が切り落とされたなら、私は己の首をつかんでこの部下達の前を駆け抜けることにいたします。もし、最後まで駆け抜けることができましたら、部下達の命だけは助けて頂きたいのです。」と言った。領主は「そんなことが出来る訳がない」と思ったので、この団長の無理な願いを聞き入れることにした。

団長は首桶の前に頭を突き出し、己の首が切られるのを待った。領主が刑の執行を宣言すると、執行人が大きなナタを振り上げ一気に団長の首を切り落とした。首がボトリと落ちると団長はむずと立ち上がり足下のモノを引っつかんで部下達の前へと駆け出した。団長は部下全員の前を駆け抜けるとバタリと倒れて絶命した。領主だけでなく、その場に居たもの全員が今目前で行われた奇蹟に呆然とした。我に返った領主は、騎士団団長の部下を思うその精神力に敬意を評し、部下達の無罪放免を告げようとした。その時、領主は団長の右手につかまれたモノを見た。それは切り落とされた首ではなく空っぽの首桶であった。団長の首は執行人の足下に白目を剥いて転がっていた。領主は部下全員の死刑を宣告した。

1999/07/20 Tue (No.007)

 

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