しゃれこうべ

友人が風呂敷に包まれた桐の箱を抱えてやって来た。酷く興奮している様で家に上がるなり風呂敷を解いて中の箱を私に差し出し言った。

「君、僕は大変な物を手に入れる事に成功したよ。早くこの箱を空けて見るが良いよ。」

私は言われるままに、なかなかに立派なその桐の箱を空けた。中にはしゃれこうべが一つ丁寧に収められていた。

「単なるしゃれこうべじゃないんだよ。誰の物だと思うかね。なんと、そのしゃれこうべは十二歳のキリストのしゃれこうべなのだよ。」

友人は自慢げにそう言うと箱からしゃれこうべを取り出してうっとりした様な表情で眺めた。

「君はこういうものが大層好きだからねぇ。一つ君にも見せてあげようと思ってわざわざ持ってきたのだ。」

私は友人の手からしゃれこうべを受け取ると、仔細に眺めた。そして、ある点に気が付いた。

「一体、君はこのしゃれこうべを何処で手に入れたのかい。」 私は友人に問い掛けた。

「先日、神田の骨董屋で買ったのだよ。ほら、鑑定書も付いている。」

友人は懐から封筒を取り出して私に見せた。

「残念だけど、君はその骨董屋に騙されたのだよ。
君はこのしゃれこうべを十二歳のキリストのものだと言ったけれど、良く見てごらん、このしゃれこうべは十二歳の子供のものにしては大きすぎると思わないかい。」

友人は私の手からしゃれこうべを奪うように取り返すと、後頭部のあたりに刻まれたサインを指差して言った。

「このサインを見てくれ。ちゃんと、本人の直筆でイエスと刻まれているじゃあないか。このサインは筆跡鑑定してもらったから本物に間違いないよ。」

「確かにそのサインは本物のキリストのサインだと私も思う。しかし、そのしゃれこうべは十二歳のキリストのものではない。
大きさもそうだけれど決定的な理由はこの右のこめかみあたりの部分に付いている小さな傷痕だよ。これはあまり知られていないけれど、フランスのペルーが1854年に書いたキリストの頭骨に関する報告書によると、このこめかみの傷はキリストが十四歳の冬に出来たものだときちんと書かれているんだよ。この報告書は過去の様々なキリストのしゃれこうべに関する鑑定でもっとも信頼できる資料とされてきたから、まず間違いないと思って良い。それに十二歳の自分のキリストのしゃれこうべは貴重でほとんど見つかっていないのだ。このしゃれこうべは大きさから考えて恐らく十五から十七歳ぐらいのキリストのしゃれこうべに細工した紛い物だね。」

私の話を聞くと友人はがっくりと肩を落とした。

「まあ、そんなにがっかりする程のものではないよ。十二歳ではないとしても本物のキリストのしゃれこうべだということには間違いはないからさ。」

1999/07/17 Sat (No.001)

 

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